山田詠美『ひざまずいて足をお舐め』

ひざまずいて足をお舐め (新潮文庫)

ひざまずいて足をお舐め (新潮文庫)

先日読了。感想を書いていなかった。山田詠美の自伝的小説。SMクラブで女王様をやっていた ちかが,小説で新人賞を取ってしまった。同じ店の女王様,忍姉さんの独白という形で物語は進む。
本書はことのほか山田詠美節が満載で楽しめた。彼女の作品ではあまり見ないタイプの,だらだらした文体。といっても実のところ,本書において独白というスタイルそのものには必然性がないように思う。あくまで普通の文体に置換可能な形で書かれているからだ。作家はなぜこのようなスタイルをとったのか。他人の視線に徹し,突き放して書きたかったのかもしれない。そして,やはり読みどころは忍姉さんとちかの,あえて自分の傷口を触ってみるような会話。哲学的シビアさが光る。山田詠美の小説はいつも読者の内面に痛みの体験を強いる。

人間自体にアクあっちゃ駄目なんだよ。それは,嫉妬をはじめとする,色んなベクトルの方向をまちがえてる人。モノを創る人ってさ,アクが強くなきゃって思いがちじゃない? でもさ,本当はそうじゃないと思うね。創るものにそのアクが出てりゃいいじゃない。(p.194)