小方厚『音律と音階の科学』

音律と音階の科学―ドレミ…はどのようにして生まれたか (ブルーバックス)
小方厚『音律と音階の科学』(講談社ブルーバックス)読了。ドレミの音階はどのようにして起こり、どのような種類があるかについての歴史的かつ物理的記述。著者は高エネルギー加速器研究機構の名誉教授であらせられる。
ドレミの音階ははじめ、素数の2と3のみを使った周波数比から作られたという。これをピタゴラス音律という。そして2、3ともう1つの素数5を使って定義されたのが純正律である。何だか嘘のようによくできているが、それぞれに弱点もあって、それをいかに克服するかという話も面白い(2と3が互いに素であるためにどうしても微妙なズレが生じて……というくだりがスリリング)。周波数比の数学的美しさと聴覚的美しさとを結びつける「不協和度」という概念が本書のキモで、数学と情緒とを行ったり来たりしながら議論が展開される。トロンボーンなどやっている人間は年中和音のことを考えているので、いちいちなるほどと納得がいく。私は「読んだあとに世界が変わって見える本が良い本」と常々思っていて、それに照らすならば本書は間違いなく良い本である。
個人的に興味を覚えたのは旋法に関する記述。ビートルズの「ノルウェイの森」のメロディーがドリア旋法であるという事実に衝撃を受けた。なんということか。旋法なんてガブリエリの時代のものだと思っていたが、全然そんなことはなく、ジャズにも使われているらしい。しかも洒落ている。ポピュラー音楽をそういう目で、というか耳で聴いてみると面白そうだ。