名前の呪縛

昨今は草食系男子が増えてきているという話だが,本当にそうなのか。昔からずっといたのではないか,という気がしてならない。最近増えてきたように見えるのは「草食系」という巧みなネーミングが人口に膾炙したからではないか。人間は名前がついていないものはある意味で認識不可能である。名前があることは重要だ。
逆に,たとえ実体がなくても,名前らしきものがあると,そこにひもづける形で実体を仮定してしまう。『めぞん一刻』で音無響子が亡き夫を忘れられない理由のひとつは,飼い犬に夫の名をつけてしまったことである。犬の名を呼ぶことと,夫の名を呼ぶこととが,行為としてはまったく同じ形をしているわけだ。飼い犬が「惣一郎」であるというのは,こっけいさの奥に深い悲しみを含んだ秀逸な設定だと思う。ちなみに高橋留美子が『めぞん一刻』の連載を始めたのは23歳。すごいとしか言いようがない。