山田詠美『蝶々の纏足・風葬の教室』

蝶々の纏足・風葬の教室 (新潮文庫)

蝶々の纏足・風葬の教室 (新潮文庫)

「蝶々の纏足」。若いときの作品なのか,まだだいぶ表現がごつごつしているが,生々しい身体感覚の描写は読みごたえがあった。主人公・瞳美にとってえり子は嫌いだけど常に気になるというきわめて面倒くさい存在で,心の屈折がこれでもかとばかり描かれている。一方で瞳美の「傲慢さ」はかっこよくて,読んでいるこちらまで優越感を抱いてしまう。理屈っぽい文体が,かっこよさに必然性を与えるのだ。こういうところも山田詠美らしい。「私の麦生への関心は彼に魅力的な困惑の表情を作らせるだけの価値がある。(p.55)」この上から目線。たまらない。
「こぎつねこん」は内容的には消化不良気味か。でも,実は私も幼いころ似たような感じだった。子守歌を聴かせられると決まって泣いていたらしい。どうやら短調のメロディーが悲しくて不安な気持ちになるという理由だったようだ。子守歌ってなんで短調が多いのかな。
風葬の教室」はですます調が苦手なので未読。

沢山の水滴はきらきらと輝き,彼女の頬を滑っている。けれど,その美しい涙は私にもう魔術をかけたりはしない。それは綺麗過ぎるのだ。もし唇で吸い取ったとしても,軽いだけの塩味に,人は幻滅するだろう。味わいを持たない体液なら,いっそ意志を持たない雨の粒の方がどんなに人を気持良くさせることか。(「蝶々の纏足」,p.75)