「トウキョウソナタ」

毎月1日は映画の日です。恵比寿にて。黒沢清監督*1
両親と息子2人の4人家族。父はリストラされたことを家族に言えないでいる。兄は突然アメリカの軍隊に行くといいだし,弟はこっそりピアノを習う。急にほころびの見えはじめる家族。なんかうまく説明できないんだけど,心に残る映画でした。
香川照之*2という人はよく知らなかったのだが,こわいおっさんだなあと思った(失礼)。だって…。ああいう人が父親だったら,私はどんな風に育つだろう。虚勢をはる裏で困惑しっぱなしというギャップが悲哀を増幅させていた。
それと母親(小泉今日子)が,ソファーに寝転がっているところから手を伸ばして「だれかあたしを引っぱって……」と言うシーンはすごいなと思った。究極的に誰かに頼りたくなる時ってあるよなあ。そこまで深刻な意味ではないがうちの母も時々やる。こんど引っぱってあげようと思う。
家族の求心力ってどこにあるんだろう。考えてみるとよく分からない。だれか1人がそういう力を持っているわけじゃないんだよな。この家族にある漠然とした求心力はいったん限りなく弱まってしまう。しかし家族離ればなれになった翌朝,それぞれ吸い寄せられるように家路につき,互いのことを尋ねるでもなくだまって「いつものような」朝食風景が繰り返されるというくだりは,不思議な感覚で新鮮だった。
小学6年の次男はなかなか現実主義者で,笑みを見せない。最近のホームドラマで描かれる小学生はしばしば同じような性格の持ち主だが,現実にもそういう子供が多いのだろうか。そのほか失業や米軍の話など,世相を反映しているが,そうかといって何かを強く訴えているわけではないという微妙な線を狙っているように見えた。
ちなみにロケ地は駒場でしたよ。

*1:黒澤明の親族かと思ったら,血縁関係ないんですね。

*2:映画館に掲示してあった新聞の切り抜きの中にこの映画に関する香川のエッセイがあった。10月1日付朝日新聞。硬派で素敵な文章でした。