村上春樹『ノルウェイの森』

ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

ノルウェイの森 下 (講談社文庫)

ノルウェイの森 下 (講談社文庫)

読了。おそらく日本で今もっともノーベル文学賞に近い男,村上春樹の作品を初めて読む。
母親は村上春樹が大嫌いで,ダメだダメだという話を聞くうちに私もなんかダメなんじゃないかという先入観がうえつけられてしまい,敬遠していたのだが,読んでみるとなんてことはなかった。低温でやる気のない筆致は独特のものがある。鬱々と日々を過ごす主人公には,残念ながらというか,共感するところ多く,なんだかこう吸い込まれそうな感じがして危なかった。
主人公は物語の最後のほうでひとつ大人の階段を上がる(というふうに私は読んだ)わけだが,2つの大切なものを自分の中でうまく共存させることは結局のところ割り切りというか如才ない生き方というか,なんだかつまらないもののように思えてしまう。それができないでいる過去の主人公のほうが魅力的に映るのは,単に私がガキだからかもしれないけれど。人が何かに悩んでいる姿に私は人間性というものを見いだす。
出てくる音楽はみんな洋楽,ほとんど翻訳調の文体といったあたりはとてつもない西洋かぶれ。「それはそうと元気になったらおなかが減っちゃったわ。ピツァでも食べに行かない?」欧米か。ピツァって。
本作は近く映画化される。主人公ワタナベトオル松山ケンイチ,直子が菊地凛子だという。これを知ってから主人公のセリフが松山ケンイチの声で再生されて困った。なかなかいいキャスティング。一番難しいのはなんといっても直子役だろう。
次は『海辺のカフカ』あたりを読んでみようと思ったが,早くも食傷気味なため,趣向を変えてほかの作家にしたい。宮沢賢治とか江戸川乱歩とかを考えている。