三浦展『シンプル族の反乱』

シンプル族の反乱

シンプル族の反乱

読了。久しぶりに読書らしい読書をしたな……。
クルマを買わず,ユニクロを好む今の若者を「シンプル族」と名付け,その「生態」を各種統計から分析する。このネーミングはシンプル志向の消費行動をさしたもので,ユニクロ無印良品がその典型として挙げられる(表紙デザインでも一目瞭然)。シンプル志向だけでなく,世代間比較で現代の若者の生活スタイル=「エコ志向,ナチュラル志向,コミュニティー志向……」を浮かび上がらせる「消費からみた「若者」論」といった趣。無印良品ばかり買う私にとってはとりわけ興味があったので,だいぶ自分と比べながら読んだ。
一般的によく言われる話に「物質的な豊かさから精神的な豊かさを求めるようにシフトしたんだ」というのがあり,まあ間違っていないとも思うのだが,「豊かさ」ってなによ,というところに引っかかる。とくに「精神的な豊かさ」。なんだそれは。具体的に何がどうなれば精神的に豊かと言えるのかが分からないので,説明になっていない。その点筆者の

シンプル族は経済の発展よりも精神的な安らぎを求める人たちなのである。(p.55)

という言い方はより的確だ。「豊かさ」という同じ言葉を使うからいけないのだ。現代の若者が求めている(といわれる)のは「充足感」のようなものだと思う。つまり「私は」満足かどうか,というかなり個人的・主観的な問題。
三浦のいう「シンプル族」は多くの特徴をもっていて,「クルマを買わない」から「海外にボランティア活動をしにいく」まで多種多様。もちろんそれらすべてを兼ね備えた人がいるわけではなく,抽出した結果ではあるのだが,思うにシンプル族にも消極的タイプと積極的タイプがあるのではないか。抑制的な消費行動をとるだけなら消極的タイプで,これはわりあいどこにでもいるが,「コミュニティー志向」や「農業への回帰」,「ボランティア活動」などは積極的タイプで,こちらは私の感覚では消極的タイプよりずっと数が少ない。本書で挙げられている事例は積極的タイプの人のがしばしばあり,私などの生活とは全然かけはなれていて驚いた。
調査資料がたくさんあるのも面白い。世代間比較では数字でガツンと差がでていたりして,たとえばこれなど

20代男性の余暇参加率を1995年と2007年で比較すると,
ゴルフ(練習場) 21.4%→7.3%
スキー 36.0%→6.2%
海水浴 51.9%→24.2%
(p.168から抜粋)

あからさまに減っている。なんだかレジャー業界が気の毒になってしまうほどだ。
読んで思った点。本書は消費者側がはっきりした動機をもって行動するパターンしか述べていないが,逆の側面もあるのではないか。つまり売る側が「シンプル志向の素敵さ」を広告などでアピールし,それが成功して消費者が乗せられているという「壮大な釣り」説。実際無印良品の広告はほとんどそれしかないわけで,つまり私も釣られている可能性が大いにある。
商品の写真などが比較的多く載っていたが,白黒で小さいためなんだかよく分からない。どうせならカラーで大きく載せたほうがよかった。それと,内容とは関係ないが,誤字脱字や体裁の不統一が多くて気になった。版元にはもう少し緻密な本作りをしてほしい。