「御心ずかい」の件: 昔の『広辞苑』の見出しの表記方針はいまと違う

広辞苑って昔は「ぢづ」を発音どおり全部「じず」で書いてたような……と思ったらこちらにまとめられていた。

つまり、戰後、公式に(「現代かなづかい」でも「現代仮名遣い」でも)「心ずかい」が正しかつたことは一度もない
(強調引用者)

http://d.hatena.ne.jp/iwaman/20090316/p2

というわけで,アナウンサーも叩く人も五十歩百歩じゃないの。という話。まあ私はこんなことで麻生首相を責める気はありません。(09/03/17 13:46) 「こころずかい」は「間違い」か,というと,基準次第というか,あんまり一概に言えない。いま広く用いられている現代仮名遣いには合ってないけれど。
(09/03/20 21:17) 「http://d.hatena.ne.jp/iwaman/20090319/p1」経由でこんなエントリを知った:「そろそろこれについて書いておくか――「心ずかい」と「心づかい」 - Cask Strength」,「心ずかいと心づかい(補) - Cask Strength」。現代仮名遣いに合ってないとも言い切れないわけか。
ちなみに手元に広辞苑』第2版補訂版(昭和51=1976年発行,昭和53=1978年第3刷)があったので,資料提供。「凡例」で見出し語の仮名遣いについて記述している部分をのっけておきます。「表音式かなづかい」というのがポイント*1現代仮名遣いとも歴史的仮名遣いとも違う。ようするに「見出しは発音通りに探せばいいよ!」ということで,これはこれでひとつの方針である。見出し以外の辞書本文は現代かなづかいによっている。

(クリックで拡大。さらなる拡大版はこちら
一応文字起こし。

かなづかい 表音式かなづかいに従って太字で表記した。和語・漢語には平仮名を、外来語には片仮名を用いた。
1 ここにいう表音式かなづかいは、いわゆる現代かなづかいとほぼ一致する。
 ただし、二語の連合または同音の連呼によって生ずる「ぢ」または「づ」については、これをすべて「じ」または「ず」で表わし、また、助詞の「は」「へ」「を」はそれぞれ発音通りに「わ」「え」「お」で示した。この場合、右に該当する仮名の下には< >でかこんで現代かなづかいを注記した。
(『広辞苑』第2版補訂版 凡例p.7)

たとえば「ず<づ>」とあるとき,これは「どっちでもいい」という意味ではなくて,発音はズだけど現代かなづかいではここは「づ」で書く,ということ*2。現在はこういう方式で見出しを立てている辞書はほとんど見ないので,勘違いする人はいるだろうと思うが,辞書は凡例をちゃんと読みましょう。

※以下追記

(09/03/16 23:55) 写真を差し替えました。
(09/03/17 00:46) ああそうそう,参考までにこの版の広辞苑で「心遣い」は下図のとおり。現代かなづかいは< >の中を見てね,ということで,はい,「こころづかい」です。

(09/03/17 00:59) 文字起こしを追加,その他微修正。
(09/03/17 10:12) そもそも麻生氏が使用している旧仮名遣いでは間違ってはいないという指摘もあり いいえ! 旧仮名遣いでは「こころづかひ」なので全然違います。 →(09/03/17 12:15)記事修正していただきました。
(09/03/17 13:46) 本文中に追記と,微修正。
(09/03/18 09:15) コメント欄,やまもとさんへ。古い版が手元にないのでhttp://azukagami.blog98.fc2.com/blog-entry-291.htmlにある「第1版」の画像からのキャプチャです。下図の矢印部分に「<づ>」があります。あくまで推測ですが,これが第2版補訂版以降の「ず<づ>」と同じものではないでしょうか。

(09/03/20 21:17) 本文中に追記。

*1:余談だが,「仮名遣い」というのは「同音に帰した複数の仮名の使い分けの基準」のことをいう。すると「表音式かなづかい」は厳密には仮名遣いとは言えない(音と表記を完全に対応させるわけだから)。どうでもいいけど。

*2:念のため書くが「ず」「づ」は現在の標準語ではどっちも同じ発音。